『将棋普及レポート』番外編

駒doc.2012春号では長野県軽井沢高校の土屋先生に『将棋普及レポート』を書いていただきました。
ボリュームたっぷりで紙面には一部しかご紹介できませんでしたので、こちらで全文掲載します!


県立高校の将棋部の指導について
軽井沢高等学校 土屋 稔


 高校の女子将棋部の指導について書かせていただきます。
 多くの皆さんの協力と素晴らしい生徒に巡り会えたおかげで、平成22年の高校将棋選手権大会で全国優勝を勝ち取ることができました。
 私が、これまでの将棋の指導を通じて最も苦労したことは、技術や戦法の指導ではなく、生徒の意識改革でした。大切なことは「自分を信じること」と「指導者との信頼関係」だと思います。極論を言えば戦法やテクニックは、後から何とでもなることだと思うのです。
 今から10年前、私が岩村田高校に赴任してきた時は将棋部が存在しませんでした。
 当時5人の生徒達と一緒に夢の実現に向けて同好会をスタートさせたのです。ダンボールにマジックペンで線を引き、紙の将棋盤を作ったのがつい昨日のことのようです。
 3年目を迎え、同好会から部に名前を変えたころ、テクニック、読み、全てにおいて全国で勝てるチームが出来つつありました。しかし残念ながらこのときの生徒たちは、自分の力を信じることができなかったのです。「全国なんて行けるはずがない」「こんな相手に勝てるはずない」生徒たちは心のどこかで自信を持てなかったのです。その結果、長野県予選で敗退し、夢はお預けとなりました。
 それから2度目の春を迎え、純真な3人の生徒が将棋部に入部してきました。3人とも駒を触ったのは初めてでしたが、何よりも勝利への執着心が強かったことが印象的でした。とにかく私を信頼してほしい、自分たちはもっとやれる、もっと強くなれる、ただそれだけを伝えてきました。平成20年、努力のかいがあって悲願の長野県優勝を果たし、全国大会初出場を決めました。しかし、目標はもっともっと先にありました。必ずトロフィーを持ち帰ると意気込んで臨んだ全国(前橋大会)は経験不足から敗退し、11位に終わり本当に悔しい思いをしました。
 平成21年、前橋の悔しさを忘れずに努力を重ね、前年に引き続き予選の県大会を勝ち上がり再び全国(三重大会)へ挑みました。生徒たちは自分たちの力を信じて疑いません。そして何よりも私を信頼してくれました。生涯でこれ以上のチームは作れないと思えるほどでした。監督も選手も一丸となって全力で戦いました。しかし、勝利の女神は微笑まず、5位入賞に終わりました。またもや夢の実現には至らなかったのです。私も生徒もみんなで一晩中泣きました。
 私の夢、先輩の思いは確実に後輩たちへと受け継がれてゆきました。平成22年の全国(宮崎大会)では予選から次々と強敵に当たり実に苦しい試合が続きました。けれど3人は、決してあきらめませんでした。先輩たちのように最後まで仲間を信じ、自分を信じ、盤面に集中し続けたのです。彼女たちが将棋を始めてわずか1年と誰が信じるでしょうか。先輩たちが切り開いた道を信じて突き進んだ結果の全国優勝でした。
 勝つには、努力も練習も大切です。しかし、本当に重要なことは「やれると信じること」、指導者にとって必要なのは「やれると思いこませること」だと確信しました。

 8年間に渡って築かれた流れは後輩へと受け継がれます。岩村田高校は本当に素晴らしいチームになりました。もう一度全国を目指そうとした矢先、私は異動を告げられました。
 私立高校と異なり県立高校には転勤があります。残念ながら長野県は「将棋の全国優勝」等のクラブの業績は、転勤には考慮されません。かくして私は、将棋とは無縁な軽井沢高校へ転勤となりました。
 2ヶ月かけてようやくやる気のある生徒を数人集めて将棋部設立の申請をしましたが、職員会では否決となってしまいました。自分の学校にクラブが作れないので仕方なく生徒と一緒に前任校の練習に参加するほかありません。
 平成23年の夏、連覇をかけて全国(福島大会)に挑んだ岩村田高校は3位に終わりました。転勤のため、対局不足が生じ、モチベーションが下がるなど精神面でもっともっと万全な状態で選手を大会へ送り込めなかった自分が情けないと深く反省しました。閉会式で3位の席に座る生徒たち。3人ともうつむいて泣いています。「去年の全国優勝。今年全国3位ってすごいじゃないか、良く頑張った。泣くことなんて何もない。堂々と胸を張って岩村田へ帰ろう」そう伝えました。何年か前、彼女たちの先輩に同じことを言って泣いた自分を思い出しました。郡山駅で生徒たちを見送り、一人車に乗り込んだとたん全て終わったと思ったら、急に泣けてきました。しばらくして生徒たちからメールが届きました。
 「2年間ご指導ありがとうございました」「先生に出会えてよかった」「将棋をやっていてよかった」彼女たちから届いたメールを見たら、また目が潤んでハンドルが見えなくなりました。
 それから半年、1月の新人戦(京都大会)には岩村田最後の教え子が出場したので、車を飛ばし応援に駆けつけました。別の高校の教師となった今でも生徒たちは全幅の信頼を寄せてくれます。けなげにも私の指示通りに頑張って2人とも予選を通過し、なんと1人は5位入賞を果たしてくれました。本当に素晴らしい生徒たちです。
 全国の強豪である愛知県や静岡県などの私立高校は監督を固定したまま中学から5年かけてチームを育てますが、県立の高校は僅か2年ちょっとで指導終了となります。しかも転勤がさらに将棋普及のブレーキをかけます。その後、軽井沢高校では生徒たちが頑張り一般大会や高校の大会で何枚かの賞状を持ち帰りました。来年こそは同好会を設立したいと思っています。そして何年か後、この会場(全国大会)に軽井沢高校の名前が登場することを目指して頑張るつもりです。またいつか生徒と一緒に泣ける日が来ることを願っています。

軽井沢高校
(土屋先生と軽井沢高校の皆さん)

コメント
20数年前に私は高校選手権全国大会の個人戦に出たことがありますが、団体戦で出場してる他校の生徒が羨ましく思えたことを覚えています。団体戦って良いものですよね。
  • パパパな大将
  • 2012/03/30 11:05 AM
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