この手だれの手?(完全版) 第33回ゲスト斎藤慎太郎七段

駒doc.2018春号「この手だれの手?」で誌面の都合上カットした部分を加えた(完全版)のインタビューをご紹介いたします。

ぜひご覧ください!


第33回ゲスト 斎藤慎太郎七段

 

PROFILE
1993年4月21日生まれ、奈良県奈良市出身。畠山鎮七段門下。

2004年9月、6級で奨励会入会。

2012年4月1日、四段昇段。

2015年度、2016年度と2年連続で勝率一位賞を獲得。

2017年3月、順位戦B級1組昇級に伴い七段昇段。同年、第88期棋聖戦で羽生棋聖を相手に初のタイトル挑戦。


●手のお手入れは、何かされていますか?
 特にしていませんね。爪は、深爪に近いくらい切ってしまいます。少しでも伸びていると、指すときに駒に爪が当たったりして気になるんですよ。駒音はかなり低い方で、「音無し流」に近いと思います。棋士によって、指し手も色々ですよね。郷田先生(真隆九段)の指し手が、こういう感じ(猫のように丸める)になられるのが可愛いなと感じます。

 


●小学校に入学する前、公文教室の本棚にあった将棋の入門書を手に取ったことがきっかけで、将棋を始められたそうですね。将棋のどこに魅力を感じたのでしょうか。
 僕は子どものころ、何をするにも時間がかかるタイプでした。例えば、絵を描くにも、最初にじっくりと構想を練るので、なかなか描き始められない。でも、集中力はあったみたいで、いざ描き始めれば2〜3分で完成します。そういう性格が、将棋に合っていたんだと思います。子どもながらに、「将棋なら自分のしたいことを表現できる」という感覚があったのかもしれません。

 

 

●対局に負けて、悔しくて泣いたり、将棋をやめたいと思ったりしたことはありませんでしたか。
 それが、なかったんですよ。負けず嫌いだったことは間違いないのですが、将棋の場合は、負けても楽しさがあったんでしょうね。駒が取れたとか、王手をかけることができたとか、そういった小さな進歩を喜ぶことができたんだと思います。当時、通っていた関西将棋会館道場の手合い用紙は12局で1枚だったんですが、すべての欄が黒星で埋まってしまっても、ニコニコしながら新しい用紙をもらいに行っていました。

 

 

●大会でのエピソードを教えてください。
 両親は将棋を知らない分、あちこちの将棋大会に僕を連れて行ってサポートしてくれました。小学3年生くらいのときに、大会で初めて会ったのが菅井(竜也)王位です。同じく3年生か4年生ごろの夏休みには、東京へ行って、上野松坂屋のこども将棋大会に参加しました。確か、佐々木勇気くん(六段)が優勝で、三枚堂くん(達也六段)と僕が2位だったんじゃないかな。伊藤沙恵さん(女流二段)や高見くん(泰地六段)もいましたよ。今、活躍している棋士が、その年の大会には大勢出ていたんです。

 

 

●小学4年生で奨励会を受験するとき、畠山鎮先生への弟子入りを希望して手紙を書かれたそうですね。なぜ、畠山先生だったのでしょうか。
 小学2年生のころ、何人かの先生に指導対局を受けて、そのうちの一人が畠山先生でした。ほかの先生方はとても優しくしてくださったんですが、畠山先生だけは、僕を子ども扱いせずに対等な態度で接してくださったんです。「こういう局面ではこういう気持ちで指さないとダメだよ」というように、指し手以外のアドバイスもくださったことが、強く印象に残りました。奨励会を受験するときには「畠山先生なら、もっといろいろなことを教えてくださるはずだ」と直感して、迷わずお願いしました。

 

 

●師匠とは、よく対局されたそうですね。
 当初は、畠山先生ご自身も対局でお忙しいですし、「将棋は教えられない」と断られたんです。それで、師匠が道場で行っていた指導対局を受けに行きました。弟子が指導対局を受けに来たら、困りますよね(笑)。それで根負けしたみたいで、放課後、練習将棋に呼んでもらえるようになりました。今までに指した回数を2人で計算したことがあるんですけど、ざっと800局くらいのようです。小学4年生から始めて、一番大事な時期に鍛えてもらいました。だから、僕の将棋には、やっぱり畠山先生の考え方がしみ込んでいると思います。

 

 

●三段リーグ在籍中はいかがでしたか。
 奨励会に入ってから三段に上がるまでの期間より、三段から四段に上がるまでの方が長かったんです。だから、やっぱり辛かったですね。最後までやれたのは、どこまでいっても将棋が好きだったから。1敗しても、「次に3勝して取り返せばいいや」と気持ちを切り替えていました。
 それでも、知らず知らずのうちにプレッシャーを感じていたんでしょうね。師匠はそれを見抜いておられたのか、あるとき「根を詰めすぎないで、うまく息抜きをしなさい」とアドバイスされました。師匠はMr.Childrenが大好きなので、お勧めのアルバムをくださったりもしたんですよ。それからは、意識的にリラックスの時間を取るようになりました。半年か1年くらい後には四段に昇段できたので、効果があったのだと思います。

 

 

●四段昇段時には、師匠にすぐ報告されましたか?
 それが、報告しようと電話をかけたら留守電だったんですよ(笑)。ちなみに、両親も留守電でした。だから、昇段者インタビューを受けた時点では、まだ誰とも連絡がついていなかったんですよね……。でも、周囲がそのくらい気楽に見守ってくれたからこそ、力を発揮できたんだと思います。

 

 

●2015年春に行われた「将棋電王戦FINAL」では、全5局のうち第1局でAperyを相手に見事勝利されました。電王戦への出場は、ご自身にとってどんな経験でしたか。
 棋士をやっていて、たった1局のためだけに半年かけて準備するということは、普通はありません。でも、事前に対策したことが本番で生きたので、やはり研究も大事なんだなと実感しました。あれほど「勝たなきゃいけない」と強く感じた勝負は、四段昇段のとき以来だったと思います。団体戦でしたので、勝ち負けが自分だけのものではないという恐怖がありました。

 

 

●対局当日は、第2局を指す永瀬拓矢六段からカイロの差し入れがあったそうですね。
 あれは、嬉しかったですね。棋士は普通、盤を挟めばライバルなので、お互いに応援し合うということがありませんから。それに、永瀬さんは、電王戦出場が決まってから初めて知り合ったところでしたし、どちらかというと勝負に辛い棋士という印象がありましたので、そのギャップが素敵でした(笑)。それ以来親交があって、今でも僕が東京へ行くときや、永瀬さんが関西に来られるときなんかに、練習将棋を指しています。

 

 

●ご自身の棋風について、どう思われますか。
 基本的には、じっくりといい形に組んでから戦いたい方です。僕は結構、将棋を形で見るのも好きなんです。ただ、今の将棋界は攻め重視。「囲う前に攻める」というようなところがあります。僕もそれを採り入れつつ、うまくバランスをとっていきたいですね。

 

 

●棋士がソフトの手を採用することもあるそうですね。時代の転換期ならではの難しさを感じますか。
 そうですね。自分の指し手をどのくらい変えるか、残すかのバランスが、すごく難しいと思います。そのバランスがいい棋士は、勝ち星を多く挙げている印象です。例えば、終盤の不利な局面で、ソフト同士が最善手を指し続けたら、不利な方が必ず負けます。でも、公式戦は「人対人」。不利な局面では、相手を惑わすような勝負手を繰り出して逆転を狙います。つまり、勝負手というのは、最善手ではないんですよね。ソフトの登場で、そういった場面での判断が、なかなか難しくなっているとは思います。

 

 

●2017年は、棋聖戦でタイトルに初挑戦されました。振り返ってみて、いかがでしたか。
 結果的に敗退してしまいましたが、自分と羽生先生との距離が思ったよりも離れていなかったという手応えも感じました。課題も見つかったので、得たものは大きかったですね。そうは言っても、1勝3敗での敗退は厳しい結果です。もう一度タイトルに挑戦したいという気持ちは、かなり強く持っています。昨年は何もかもが初めてでしたので、次のチャンスがあれば、また違う自分をお見せしたいですね。

 

 

●最近、関西所属の若手棋士が本当に活躍されています。そのことに刺激を受けますか?
 もう、刺激しかないですね。喰い気味に答えましたけど(笑)。そういう環境下で闘えるのは、嬉しいことです。でも、やっぱり焦りもありますよ。焦って失敗しないように、自分のペースを大事にしたいとは思っています。

 

 

●皆さん、とても仲がいい印象です。
 そうですね。ただ、明日の敵ではあるので、お互いに緊張感は保っていたいです。どこまで親しくするか、その加減が難しいところです。一方で、同じところを目指している同志であり、同じ痛みを分かち合う仲間であることは間違いないです。棋士というのは、不思議な関係ですね。

 

 

●ライバルの棋士はいますか?
 若手棋士は全員です(笑)。対局で当たればいつもより「負けたくない」と思いますし、活躍してるのを見るだけでも「負けていられない」と思います。今は、ライバルだらけですね。同じ関西で年が近いのは菅井王位ですけど、ライバルというよりは「追いつきたい存在」です。

 

 

●詰将棋愛好家としても知られています。詰将棋の魅力を教えてください。
 駒の動かし方を覚えたばかりのころは、一局指して勝つということが難しいと思います。でも、詰将棋なら、最後の「勝ち」の部分だけを経験できます。勝つことの達成感や喜びを、一人でも、電車の中でも、手軽にできるのが魅力です。「自分がこう指したら相手はどう指すだろうか」と考えるのは対局と同じですから、読みの訓練になることは間違いありません。
 もちろん、解けないときは辛いんですけど……。ただ、僕自身は、解けなくても「自分の知らない手が出るんだ」というワクワク感があって、詰将棋を嫌いになったことはないですね。

 

 

●詰将棋には、棋力向上の手段としてだけでなく、芸術としての魅力もあるのでしょうか。
 はい。ただ、芸術性について言葉で説明するのは難しいなー(笑)。なんというか、はかなげな美学みたいなものがあるんですよ。詰将棋は絶対に詰む局面ですが、玉方はできるだけ長く粘る順を選ぶというルールがあります。玉方が、あらゆる手を使って頑張るという美学が面白かったりするんです。そこから、実戦では考えられないような受けが生まれたり。受けの芸術性というものを感じます。

 

 

●好きな詰将棋本はありますか。
 うーん、これもたくさんありすぎて、決められないですね……。よく名前の挙がる『盤上のファンタジア』(若島正・著)は、詰将棋の可能性を広げられた素晴らしい作品だと思います。

 

 

●対局やイベントなどで東京に来るときは、オフの時間をどんなふうに過ごされますか。
 僕は食べるのが好きなので、事前にお店を調べて、ちょこちょこ食べ歩きに出掛けます。将棋会館のある千駄ヶ谷界隈や、四谷三丁目、信濃町あたりの雰囲気が好きですね。お気に入りの店は、四谷三丁目の「キッチンたか」。もう20〜30回は行ったかもしれません。ハンバーグとか、ポークジンジャーとか、オムライスとか、どれも美味しい。気取らない街の洋食屋さんという感じです。

 

 

●料理好きとしても知られています。料理のどんなところが楽しいですか。
 料理って、最初にこれとこれを切っておいて、それから煮て……というように、構想があるじゃないですか。それを考えるのが好きです。得意料理は、切り干し大根とか、おひたしとか。色々作りますが、和食系が安定してうまくできるかな。対局のときは出前や外食になるので、自炊では野菜とたんぱく質を意識的に摂るようにしています。

 

 

●もし結婚するなら、相手に料理の腕は求めますか?
 そういうのはないですね。僕も作りますから、料理が苦手な人でもいいですよ。問題ないです。

 

 

●近年、女性ファンや、いわゆる「観る将」のファンが増えました。
 今まで少なかった層の方が見てくださるのは、棋士として嬉しい限りですね。最近は解説のお仕事をいただくことも増えましたが、自分の目標は「一番分からない方にも分かる解説」をすること。棋士だとどうしても、当たり前だと思うことが多いんですよ。「この歩は取る一手」だとか。でも、将棋を始めたばかりの頃はそうではなかったことを思い出しながら、始めたての方になんとか合わせたいと思っています。始めたての方が「あ、今の分かった」と言ってくださるような伝え方ができるといいですね。

 

 

●最後に、今後の目標を聞かせてください。
 昨年はトップ棋士と対戦する機会が増えて、まだまだだなと思うこともたくさんありました。もう一度舞台に立てたときに、今度こそ結果を出せるように、一日一日、勉強を積み重ねていくしかないと思っています。それと同時に、何か新しい鉱脈というか、自分ならではの指し手というものも残したいですね。勝負師としての面と、芸術性や個性の面。その両方を追及していきたいので、見守っていただけたら嬉しいです。

 

 

(取材・文=いしもとあやこ 写真=直江雨続)

 

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