この手だれの手?(完全版) 第39回 ゲスト 木村一基王位(5)

駒doc.2019秋号「この手だれの手?」で誌面の都合上カットした部分を加えた(完全版)のインタビューをご紹介いたします。

今回が最終回です。ぜひお読みください!

 

 第39回ゲスト 木村一基王位 

 

PROFILE

1973年6月23日生まれ。千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。
1985年6級で奨励会入会、1997年4月四段。2017年6月26日九段。第60期王位。順位戦A級・竜王戦1組在籍、タイトル戦登場回数7回、タイトル獲得1期。棋戦優勝2回、将棋大賞受賞4回。
千駄ヶ谷の受け師という愛称で親しまれる居飛車党。将棋での活躍もさることながら、わかりやすく面白い解説にもファンが多い。

 

インタビュー(5)

 

●千駄ヶ谷の受け師、相手の攻めを呼び込む将棋、相手の攻め駒を責めるといった表現をよく目にしますが、ご自身の棋風について教えてください。
棋風は基本的には攻めですよね。

「攻め駒を責める」については、それなりの目的を持った手じゃないと、ただの緩手(*10)になりやすくて、そこはただ自陣に手を入れてるだけではだめなので。

最近は特にそういう緩手を咎められるきつさが顕著になってきた気もするので、受けをあまり意識しすぎるとかえってよくないことが多くなったような気がしますね。
受けていても、自分の手番が回ってきたら必ず攻めるということを考えて、あくまで攻める準備だという風に捉えておかないと、受けっぱなしになってしまって勝つための妨げになる恐れもありますからね。

私自身には受け潰してやるという認識はあまりなくて、ここはこうやるもんだって感覚のものですよね。

だからその感覚が異常だと言われたって困るんです。

*10 狙いが中途半端で相手が対応する必要性が低い手。甘い手。

 

●玉捌きという単語をあまり他の先生の対局では聞かないように思います。
玉は一番強い駒で、そういう点では使いやすいと思うんですけど。

ただ確かに最近は攻めの技術が発達してきたので、流れ弾にあたりやすくて危険だなと感じることが多くなったような気がしますね。

だから前ほど入玉することは少なくなってはいるんです。

攻める人が多くなったので、尚更目立つような感じになった気がしますね。

あんまり今は棋風にこだわる余裕がないです。


●普段の研究は、お一人でされたり研究会やVS(*11)をされたりするのでしょうか。
思い付いたことを試すとか、試したら向こうもなるほどってことを持ってきたりすることもあるから、そういうことでいろいろ考えますね。

それが2年ぐらい経ってから実戦で出てくることってあるんですよ。だから無駄にならないんです。

忘れちゃうこともあるので、記憶が勝負だとか、飲みすぎちゃいけないとか、そういうことにつながるわけですね。

やっぱり負けが込んでる時に「この時これ考えたのに何で思い出さなかったのか」とか考えますもん。

なので、研究会や下準備はやっぱり重要ですね。

*11 VS:1対1で行う練習将棋のこと

 

●1日の勉強時間は決まっていますか?
やる気がある時とない時がありますんでね、私はムラがありますよ。全然やらない時もある。

それでも0ってことはないようにしないと結構忘れちゃうんで、ちょこっとはやりますね。1時間でも30分でもやれる時は考えるようにしています。

 

●研究会やVSの頻度はどのくらいでしょうか。
月7、8〜10回といったところでしょうか。ただ最近は結構バタバタしていて、全部延期してもらったりして減りました。

そういうツケが2、3か月後に来る可能性もあるので気をつけないといけませんね。

ただ、ソフトの時代の良さというのはあって、自分で意識して時間さえ持っていればカバーできるようになったので、なんとかそれでやっていければいいなとは思います。

 

●VSは佐藤天彦九段と長年行っていらっしゃるそうですね。
もう15年ぐらいになります。彼が福岡から上京してきた時から始まっていますからね。

有難いことで、名人を取った後も来てくれました。見捨てられるまでは続けようかと思いますよ。

 

●研究会やVSで試したことは、対局ではお互い避けるのでしょうか。それとも更に練ってぶつけるのでしょうか。
出さないことが多いんじゃないですかね。全然違うことやる。ただ違う人と対局した時に生きるかという感じでしょうか。

 

●研究会では羽生研(*12)が有名ですね。
刺激になって、とても自分にとっては大事な機会です。

きつい研究会で……じゃあ他は甘いのかって言われちゃったら、それも何か言いにくいところがあるんですけど。

序盤知識が豊富な人ばかりで、ついていくのがやっとです。

みんなが序盤はこうだって意見言ってるのに付いていけないですもん。

そうなんですかってさもわかったふりをして頷いて、心の中ではもう勘弁してくれよって思ってます(笑)。

研究会の時間は10時〜17、18時ってところですかね。

羽生さんは技術面に関してピリッとしているところがあるんで、接してても良い意味で緊張感があるし、そういうのは棋士にとってとても貴重なものかなと思います。

*12 羽生善治九段、木村一基王位、松尾歩八段青嶋未来五段による研究会。

 

●研究会をされたり、時に対局をされたり、プライベートでのお付き合いもあるかと思いますが、棋士同士での付き合い方についてはいかがでしょうか。
でもそんなにないですけどね。まっつぁん(松尾八段)とたまに飲みに行く程度ぐらいかなあ。あとは飯島君(飯島栄治七段)とか。

研究会が終わった後も、最近帰るようになりました。前はよく飲んだりしてましたけど、その点では健全になりましたかね。

 

●対局終わった後の切り替えはお互いすぐできるものでしょうか。
しないとね。対局終わってギラギラしてないでしょう。あんまり考えたことはないですね。

対局前はピリピリしてますけど、必要な事があれば話しますし。

あまり意識したことがないんで気にしてないってことですね、きっと。

 

 

●羽生世代(*13)についてどう思われますか。
私はそれに当てはまってない世代なんですよね。

羽生世代って郷田さん(郷田真隆九段)、佐藤康さん(佐藤康光九段)、その世代ですよね。

そことはやっぱりはっきり分かれると思います。実績も全然違うし。

……どうなんでしょうかね、一つの壁でもあるんですけど、救いというか、そういったのでもあるんですよ。

そこの世代が頑張っていれば、こっちだって理論上落ちることがないので。
活躍してる人が多いですよね。羽生さんは別格としたって康光さんだってそうだし、郷田さんだってついこの間まではタイトル持ってたわけで。

そしたら歳は取ってるんだけど、あんまり自分もそればかりで弱いことは言っていられないなとは思います。
それも世代ではなくて、個々ですごいという感じを私は持っています。

だから羽生さんは羽生さんであり、郷田さんは郷田さんで、やっぱりそれぞれストイックにやってるとこがあるんでしょう。

同じぐらい続けられればと思いますね。

*13 羽生九段と年齢や奨励会入会時期の近い強豪棋士を指す。

 

●最近は若い世代の活躍も目立ちます。
そうですね、技術面でもトップの人に引けを取らないくらいの人が多くて、層が厚いような気がします。

ただ、全ての人がある一線を越えたか、タイトルに手が届くかと言ったらそれはやっぱり違って、そこで差というものがでてくると思うんですね。

常にふるいにかけられる世界なので、その世代の後輩は後輩で結構きついのだろうなとも思います。

まあこっちはいずれ踏んづけられる役割になりますけど、それが遠い先になることを願うばかりで(笑)、いつかはやられますからね。

 

●今期の目標・長期的な目標を教えてください。
今の地位を長く続けるということですね。

順位戦でA級に上がったのはやっぱり大きなことです。

そりゃ勢いよく名人挑戦だって言いたいけど、いつまでもそんなこと言ってられないから、とりあえず残留を目指してやりたいと思います。

ランクで言うとA級と竜王戦1組を維持できればなと思います。
王位戦についてはやれる限りはやりますけど、最近何やるにしても運命論者っぽくなってるんですよ。

もう一生懸命やってるから、結果はしょうがないと思うようにして。

ただ、そう思えるくらいの準備や勉強をやっているので、それを維持できるようにしたいなと思いますね。
勉強してて結構きついなと思ってもまだ結果が出てるから続けてられますけど、多分星が黒くなってきたらもうやってらんないなってなると思います。

逆境でもそれが長く続けられるようにしたいなと思いますね。

当面の目標もそうですね、きっといつか落ちていくんでしょう。だけど、なるべくしぶとくやっていきたいですかね。
酒もちょっと控えようかなと思ったりもしています。もう本当にタイトル挑戦は最後だろうなと思って、色々考えますね。

もちろん勝てばいいですけど、どうしたら後悔を一番せずに済むのかとかいうことを考え出したりしました。

インタビューで「タイトルホルダーは20代の人が多い中で」とか聞かれたり、3年前の王位戦挑戦のことを聞かれると、今回のタイトル挑戦についてはみんなもそう思ってるんだろうなということも感じますしね。

後悔だけはしないようにと思います。

 

(2019年6月7日取材 文=沙耶 写真=直江雨続)

 

 


 この手だれの手?(完全版) 第39回 ゲスト 木村一基王位(4)

駒doc.2019秋号「この手だれの手?」で誌面の都合上カットした部分を加えた(完全版)のインタビューをご紹介いたします。

全5回中の第4回です。ぜひお読みください!

 

 第39回ゲスト 木村一基王位 

 

PROFILE

1973年6月23日生まれ。千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。
1985年6級で奨励会入会、1997年4月四段。2017年6月26日九段。第60期王位。順位戦A級・竜王戦1組在籍、タイトル戦登場回数7回、タイトル獲得1期。棋戦優勝2回、将棋大賞受賞4回。
千駄ヶ谷の受け師という愛称で親しまれる居飛車党。将棋での活躍もさることながら、わかりやすく面白い解説にもファンが多い。

 

インタビュー(4)

 

●対局についてお聞きします。王位戦挑戦者決定・順位戦A級復帰・竜王戦の本戦進出など好調の要因は?
あまりそういう自覚がなくて、負けてる時は全然ダメな対局もあるんですよ。

要は安定しないってことなんですよね。

若い頃に挑戦者になった時にはもうあらゆるもの勝っていて、少なくとも格が下だと思われるような人には負けていなかった。

そういう意味で安定度に欠けると感じています。

年齢によるものなのか集中力が途切れる時がどうしても出てきて、対局中はそんなつもりないんですけどね。

後から思い返してみると、そうなのかなと思わざるをえないところがあって、ちょっとそれは前とは違うと思います。

確かに結果を出しているという意味では調子がいいんですけど、何でこうなのかは分からない。実感が伴ってないんですよ。

今は良いんですけど、崩れるときは多分また手を付けられないくらい崩れていくんだなっていう怖さや不安要素の方があります。

ただソフト(コンピュータ将棋ソフト)を使うということが、若い人でなくてもプラスの部分があって、使い方次第では毒にも薬もなって、それがたまたま私にとっては薬になってる部分が出ているんじゃないかと思います。

それは逆もありますね、毒になるって部分が出ることもある。

だから本当に安定度には欠けるかな、たまたまうまくいってるんだなと言う風に思います。

 

●ソフトに関する講演(*7)では「ソフトの手を鵜呑みにしないで、自分で考えた上で答え合わせとして使う」、「ソフトに頼るのではなくて自分でそのソフトの考えが理解できるかを大事にしている」と仰っていました。
ソフトの手は正解に決まってるんでしょうけど、それでも疑ってかかるくらいのほうが多分いいのかなというか、少なくとも自身に合ったやり方かなという風には思います。

ただ、どうしても覚えることが多くて、正直きついなって思う時もあるんですよね。

だけど、まだわからなくてきついなっていうよりはマシかもしれないと思っています。どっちも楽ではないですけど。
ただ、ソフトが人を超えたという風に言われてから、意外と順応できているという気はします。

取り残されるんじゃないかと思ってましたけどね。そこまで行ってないなとは感じてます。

*7 2018年1月東洋大学にて開催された「情報、身体、ネットワーク―21世紀の情報理解に向けて―」第3回研究会内での講演(http://id.nii.ac.jp/1060/00009805/

 

●ソフトの使い方は?
ほとんど序盤です。終盤はね、やってもしょうがないんですよ。

だから結局ソフトを使っても記憶力が勝負になってくるので、歳を重ねるに従ってきつくはなってくるんでしょうけど、意外とカバーできてるかなっていう感じですね。

 

●今までで一番印象的な対局は? 以前は2002年の新人王戦の対鈴木大介(現九段)戦と答えていらっしゃいました。
どうですかね、最近意識するとしたら、負けた時の事の方を思いだしますね。

3連勝4連敗食った時の最後の局(第50期王位戦)だとかを思い出しますね。あとは羽生さん(羽生善治九段)との王位戦(第57期王位戦)で大ポカした3年前のことだとか、そういうことを思い出します。

勝った時のことをあんまり考えないですかね。少し取り組み方ってわけじゃないけど意識の仕方が変わったかもしれないです。

勝ったことを忘れているくらいだからどうなっちゃってるのかな……年を取って変わったってことでしょう。

 

●忘れることが大事だと羽生先生が仰っていました。
そう、都合の悪いことはね。だけど忘れられないでしょう、人は。

だけど上手く切り替えるってことは確かに大事で、羽生さんを見ててさすがだなと思うことは多々ありますよ。

忘れてるわけないんだけど、どうプラスに切り替えるかっていう、わかっていてもしにくいことをやってますから。

それで結果を出してきた人だから、すごいなって思いますね。

 

●先生はインタビューで「一勝一勝」「一局一局」という言葉をよく使われます。
あまりでかいことを言うという習慣がないです。それが信じられないのよ。

力もないのに口だけ言ってもしょうがないから、「まず一勝」ぐらいだったら言ってもいいでしょ?1回勝てば全然変わってくるんですよ。

見えてくるものもあるので、とりあえずそういうことを念頭においています。やる気がないわけじゃないんですけどね(笑)。

 

 

●お好きな対局の持ち時間は?
やっぱり長い方が余裕を持って、ゆっくり考えることができますね。

3時間ぐらいだとちょっと足らないなって感じがします。

でも6時間だとちょっと考えててきついなあと思うこともあります。

2日制とか優雅に考えられるし、結構楽しいですよ。
羽生さんとかは相手に合わせると言うか、こっちが3分考えたら3分考えるようなところがありますけど、今豊島さん(豊島将之名人)とか違うでしょ。

だからどうなるのか、ちょっとわかんないですけどね。

1日制で終わっちゃうかもしれない、封じ手投了で。

 

●最近では序盤を飛ばして中終盤に時間を使う早指しの方が多いですか。
そうですね、そこまで完璧にやっているのか適当にやっているのか、それは分かりませんけど、目立ちますね。

ただ長く考えてゆっくり指す人がまた否定されているわけでもないような気もするので、あんまりそれで自分のペースを変えようとまでは思いませんね。

私はそそっかしいところもあって、同じペースでやるとミスも多くなりますので、今まで通りやるかなって感じです。
 
●朝日杯の優勝やAbemaTVトーナメントでも本戦進出など持ち時間短いものでも結果を残されています。
思い切りよく指すことが良い結果につながるってことはあるんですね。

だから課題としては3、4時間のところでミスが出やすいんでしょう。

迷わないから良いっていうのはありますよね。それもたまたまなもので、NHK杯とか銀河戦はずいぶん成績悪いですもん。

だから早指しが向いてるかって言うと、ちょっと違うような気もします。

 

●対局前の過ごし方は?
前の日は研究会(*8)の予定とか入れていればやりますけど、なるべく休んでようかと思ってます。のんびりしてるんですよ。

まず指圧を受けに接骨院に行って、腰を揉んでもらって。午後ぐらいになってから作戦を考えて、それが夜7時ぐらいに終わります。作戦が決まって、あとは酒飲んで寝るという感じです。

*8 研究会:4人以上の偶数人数で集まり、練習対局を行う会

 

●健康管理には気をつけていますか?
走るようにはしてますけど、そんなに健康とは言えませんね。

ただ対局の前日に走ると寝れないんですよ。対局が多いと走るのを控えたりするんで、最近は減りましたね。でもやらないと太るし。

 

●対局前日のお酒の量は控えめですか?
いや、普通に飲んでます。ビールじゃなくなって日本酒の方になっちゃって、血圧も高めだし、そろそろまずいんじゃないですかね(笑)。

 

●対局の合間に席を外してストレッチや運動をすることはありますか?
最近は減りました。しないわけじゃないですけど、そんな余裕なくなってきちゃって、ずっと考えてることが多くなりました。

だから多分顔も真っ赤なんじゃないかなって気がします。

 

●先生は対局中の食事が少ない印象です。
前の日と当日の朝にしっかり食べてますので、少ない量でも大丈夫です。

最近は子供が中学校に行って弁当になったんです。それで自分もここ2年ばかりは妻の作った弁当を持たされるようになりました。

 

●おやつもあまり召し上がりませんか?
チョコレートを買って食べる時はあります。ただ、気休めですね。あってもなくてもいい感じ。

あとは梅のど飴とレモンの飴です。口が寂しくて、持ち時間が長い時だったら2本ぐらい食べちゃいます。

飴がないと水を飲んじゃうんですよ。あんまり水ばっかり飲むとトイレが近くなっちゃって終盤が大変だから、それを減らすという効果もあるんです。でも飴も気付いたら噛んでるんですよ。

 

●先生は奥歯を噛み締めるくせがあって、対局後は顎が痛くなると聞いたことがあります。
前ほどそんなことはないですけど、歯医者に行ったら「あなたは入れ歯作れないよ」って言われたことがあります。

下の歯がどう見ても力が加えられて異常だって、変形してるってことですよね、多分。

飴だって噛んじゃうんだから、癖ですよね。

ただ、それぐらい集中してるってことだから棋士としては悪いことではないんですよ。

 

●対局相手のおやつは気になりますか?
全然気になりません。唯一気にしたのは昔加藤先生(加藤一二三九段)がうな重を食べた時くらい。

だって対局中に対局相手の目の前で食べちゃうんだから。

私はどうしたら良いのか、って思いましたけど。
それをいろんな人に話したら、米長先生(米長邦雄永世棋聖)だけは「俺ならそこからカツ丼を頼んで、目の前で食べてやる」と言って、なるほど人と違う発想だなと思いましたね。

 

●対局時の持ち物は?
扇子、懐中時計、タオルハンカチ程度ですかね。

持たないようにしているのは手帳です。

対局の時は人と話をしないようにして、他の予定も考えないようにしています。それは去年ぐらいからそうするようになりました。
懐中時計は弦巻さん(カメラマンの弦巻勝氏)が贈ってくれたんですよ。

竜王挑戦した直後ぐらいの頃に、和服を着る時に腕時計は合わないんだって言われたんですよ。分かりましたって言ったらすぐ贈ってくれました。

重宝して、和服じゃない時も10年以上使ってます。

扇子にはこだわりはないですけど、最近は自分の「孜々不倦」(*9)を使うようにしてます。

タオルハンカチの柄もあまり気にしないですね。選ぶ時も一番上に置いてある物にします。

ネクタイは、最近は昇級してからファンの方にいただいたものを交互に使ったりしていました。

順位戦の時に使うネクタイは娘に選ばせました。

*9 途中でやめることなく、ずっと努力し続けること。
 

(2019年6月7日取材 文=沙耶 写真=直江雨続)

 

その5に続きます)

 


 この手だれの手?(完全版) 第39回 ゲスト 木村一基王位(3)

駒doc.2019秋号「この手だれの手?」で誌面の都合上カットした部分を加えた(完全版)のインタビューをご紹介いたします。

全5回中の第3回です。ぜひお読みください!

 

 第39回ゲスト 木村一基王位 

 

PROFILE

1973年6月23日生まれ。千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。
1985年6級で奨励会入会、1997年4月四段。2017年6月26日九段。第60期王位。順位戦A級・竜王戦1組在籍、タイトル戦登場回数7回、タイトル獲得1期。棋戦優勝2回、将棋大賞受賞4回。
千駄ヶ谷の受け師という愛称で親しまれる居飛車党。将棋での活躍もさることながら、わかりやすく面白い解説にもファンが多い。

 

インタビュー(3)

 

●続いて普及活動やプライベートについて伺いたいのですが、木村先生はトーナメントプロとして活躍されながら、普及も熱心に行っていらっしゃいます。
自分から何か動いてやってるわけでもないし、もっとやっている人もいますからね。

あんまりそういう意識を持ってないですよ。平均的かなと思います。

 

●普及活動は指導対局や解説が多いですか?
指導対局は加瀬さんのところの教室(*6)を月1回やっていて、それはもうずっと続いてます。

解説はやっぱり多くはなりました。もうネタがなくてね、廃業かな。
解説は対局者に比べるとやっぱり飽きられるはずです。

どんな人でも話す文言には癖があるから、それは仕方のないことで、だから同じ解説ばかりでもきっと人は飽きるだろうと思うので。飽きられることがないようにしたいと思いますけど、当然限界があります。
いろんな人がいろんな面白いことを言ういい時代になったと思いますね。

結構聞いていて楽しく感じる後輩が多くなったような気がします。

*6 加瀬純一七段 将棋教室

https://kaseshogi.webnode.jp/

 

●木村先生の解説は大人気です。トークや解説で気を付けていることはありますか?
あんまり悪口に聞こえてしまうようなことは言わないようにしてます。

あと本当は技術的な話を減らしたいんですよね。

目標は技術的な解説と雑談とを五分五分ぐらいにしたいんですけど、どうしたって終盤は専門的な話になってしまうので、そこら辺が課題ですね。
将棋が強い人が初心者向けの解説を聞いても、知ってる話だったらあんまり悪くは捉えられないのかなっていう感触を私なりには持ってます。

難しい解説をずっとし続けてわかる話がひとつもなかったという方がきついと思いますので、易し目のことを言うとか何かこぼれ話をするとか、そっちの方を多くして、一つでもわかっていただける話があればいいかなと思うんですけどね。

そういう意味ではネタをどんどん作らなければいけない(笑)。

そうは言っても解説であって漫才じゃないんだから、その辺のバランスが難しいところですね。

 

●客席の様子も気にされますか。
客席の様子は見ます。やっぱり眠そうな人もいるから。

昼間の時間だとそういう人もいるでしょうからね、そういう人も笑わせられるようにしたいなと思いますね。

 

●将棋ファンと触れ合う機会も増えましたね。
私は人の顔を覚えるのが大変苦手で、会ったのが1回2回だとまず忘れてしまいます。

名刺をもらっても1年経ったらもう覚えてなかったりとか、結構失礼があったりすると思うんですが、こればかりはどうしようもなくて。

でもイベントなどで声をかけて頂くのはありがたいことで、楽しみでもあります。

前夜祭や就位式にお越しいただく方もいらっしゃるので、今まで通り遠慮せずに声をかけて欲しいなと思います。

 

●将棋ファンにも指す方、見る方色々いらっしゃいます。
どちらも歓迎というところでしょうか。

出来れば指すところまで行ってほしいですけど、人それぞれ楽しみ方があるし、負けるのが嫌だって人もいます。

欲を言えば指して欲しいですけど無理のないようにと思います。

 

 

●ファンからもらって嬉しいプレゼントは?
ネクタイです。酒は嬉しいんですけど、ちょっと今自宅に一升瓶10本分くらいの量がありまして。

順位戦でA級に上がってから来たもので、だから結構家では酔っ払ってるんですよ。

 

●毎日どのくらいお酒を飲まれますか?
四合瓶を空けないようにしています。2合ぐらいで酔っ払ってきてるんですけどね。3合飲むと翌日に残っちゃって、4合飲むと自己嫌悪に陥るんで四合瓶を一本空けないように飲んでます。

難敵は一升瓶で、一升瓶はね、わかんないの。

最初から2合とか分けておけばいいんですけど、お猪口で飲むからダメなんですよ。

気が付いたら(飲みすぎで)次の日は二日酔いになってるから、そこは考えないといけないなと思います。

 

●一番好きなお酒は?
日本酒が一番好きですけど、翌日に残りますからね。

気軽に飲むのはビールなんですけど、ビールを飲むと次に日本酒が飲みたくなるので。

最近は夕飯前に飲まないようにしてるんです。夕飯の時に飲んでると寝るまで飲んじゃうから、寝る前に飲むようにすると少し違うんですよ。

ところがそこからまた長くなっちゃって、そうするとまずいから本当に寝る直前に飲むようにしないといけない。

 

●日本酒は辛口派ですか?お好きな銘柄は?
辛口派です。今は何でも美味しくなりましたね。だから好みもあるけど、特に何も考えず飲んでます。

 

●最近のご活躍に、ご家族の反応や応援はありますか?
羽生さんの歴代最多勝利がかかった対局の時に、NHK に写ってたのはずいぶん衝撃を受けたみたいです。

職業は知ってますんで、普段は特に何も言わないです。

もう空気のようなものだから、かえって意識しないところがいいのかもしれないですけどね。

 

●千駄ヶ谷の受け師・おじおじ・将棋の強いおじさんなど、ご自身の異名や愛称についてはどう思われますか?
おじさんは自分で言っちゃいましたからね。おじおじはあんまり……ちょっとなという気もします。

まあ言われてしまったものは仕方ないですし、悪い意味でつけてるとも思えませんのでね。
注目されたりして愛称がついたりするのもいいですけど、あんまり笑われる存在になってもなというところもあるので、そこの線引きだけは難しいんですけどしとかないといけないなと思います。

笑わせるのと笑われるのはちょっと違うんで、難しいです。

 

●ジョギング以外の趣味はありますか?
趣味ないのよ。

本を読むのは好きですよ、たまに読んだりしてますけど、最近はもう移動の時に読むだけという感じになりました。

趣味は飲酒と言ったって、次の日は必ず飲みすぎで二日酔いだから命がけでしょう(笑)、だから楽しいかどうかはわからないです。

 

●移動の時は読書をすることが多いですか?
最近は作戦のことを考えてることが多いですよ。対局が終わったら本読んだりするんです。

だから意外と限られてるんですよね。寝ちゃう時もあるでしょう。飛行機でも寝ちゃうし、1時間以上あったら寝ちゃうかなって感じです。

 

●タイトル戦では有名な都市や温泉地など、色々な場所に行かれますね。
対局の後は疲れて観光出来ないんですよ。

前に札幌へ行った時にどっか行ってやろうと思ったけど出来なくて、「せめてラーメンを」と食べて帰りました。

札幌に行けばラーメンか寿司かとなりますけど、意外と食べられないですかね。

それから何年も経っていて、体力がついているわけないですから、節制を心がけようと思います。 
王位戦だと有馬温泉が必ずあるのでそこは楽しみですけど、温泉浸かりに行ってるわけじゃないんで、楽しめるかは勝ち負けにもよりますね。
 

(2019年6月7日取材 文=沙耶 写真=直江雨続)

 

その4に続きます)

 


 この手だれの手?(完全版) 第39回 ゲスト 木村一基王位(2)

駒doc.2019秋号「この手だれの手?」で誌面の都合上カットした部分を加えた(完全版)のインタビューをご紹介いたします。

全5回中の第2回です。ぜひお読みください!

 

 第39回ゲスト 木村一基王位 

 

PROFILE

1973年6月23日生まれ。千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。
1985年6級で奨励会入会、1997年4月四段。2017年6月26日九段。第60期王位。順位戦A級・竜王戦1組在籍、タイトル戦登場回数7回、タイトル獲得1期。棋戦優勝2回、将棋大賞受賞4回。
千駄ヶ谷の受け師という愛称で親しまれる居飛車党。将棋での活躍もさることながら、わかりやすく面白い解説にもファンが多い。

 

インタビュー(2)

 

●一門についてお聞かせください。佐瀬先生は早くに亡くなられましたが、どういう方だったのでしょうか。
私が高校生の時に亡くなったんです。普及にとても熱心でしたね。

将棋まつりをやることだとか、指導に行くだとか、そういうことをよくやっていました。

 

●佐瀬先生のお弟子さんはかなり多いですね。
そうですね。一番上の兄弟子が米長先生(米長邦雄永世棋聖)で、息子みたいな年代だからずいぶん怒られたとか、鉄拳をくったみたいな話を書かれたりしてますけど、私に関して言えばそんなに叱られたという記憶はないですね。

随分可愛がられた方だと思います。実際怖いとは思いませんでしたしね。

 

● 木村先生が最後のお弟子さんです。
結果的にはそうですね。他にも弟子はいたんですけど、やめることになりました。

沼先生(沼春雄七段)が、佐瀬先生の亡くなった後に弟子に引き取ってくれて。沼先生のもとに何年くらいいましたかね……5年はいたと思いますけど。その中で7人くらい奨励会員がいたんですけど、その内プロになったのは丸山(丸山忠久九段)・中座(中座真七段)・木村の順だったと思います。

 

●沼先生は木村先生の九段昇段祝賀会でもスピーチをされていました。
亡くなった佐瀬先生が米長先生のことでパーティーをやるのが大好きだったんです。

その記憶があるので、沼先生は私がああいう会を開くと、とても喜んでくださっていたのを覚えています。

 

●沼先生はどういう師匠でしょうか。
奨励会時代はずいぶん気にかけてくださって、成績を気にして例会の最終日に必ずいらっしゃるんですよ。

昇級戦線にいればいいんですけど、いないときも結構あって、例会が終わった後に食事会をするんですけど、暗い食事会でね。

だって成績良くないんだもの。

毎回のようにしてくれましたけど、ずいぶん勘定が高くついたんじゃないかな。

一回焼肉屋で二十何万かかったことがありました。

寿司屋でどんちゃん騒ぎをしたこともありましたし、そういう意味ではずいぶん散財させてしまいましたね。

でもよく気にかけてくれる良い先生でした。

 

●佐瀬先生は高校進学に反対されたそうですね。
反対しましたね。丸山さんが大学に行ったんですよ。

私は丸山さんより3学年下で、私が高校に行った時に彼が大学に行ったんです。それでずいぶんムッとしてましたね。

ただ、自分で決めていたのであまり聞くつもりはなかったです。休んでもクビにならないようにしようと思って、私立の学校に行きました。

 

●当時は義務教育が終わったら修行一本という考え方だったんでしょうか。
よそのことを知るよりもやることをやれという考え方でしたね。

 

●木村先生は大学にも進学されました。
大学生活を経験したくて進学しました。だけど良かったかどうかはね、わからないです。

もう決めたことだから後悔しないようにと思って、全然後悔もしてないですけど、将棋にプラスになったかどうかと言うとわからないですね。

どうしても将棋から離れる時間が多くなって、他に楽しいことを覚えたりもしますし。

でも酒の飲み方は覚えましたよ。覚えたと言うか、知ったと言うか、自分の限界を知りました。

相当無茶なこともやったし人に迷惑もかけましたけど、そういう点では良かったですね。
ただ将棋の技術面で言うとやっぱり離れるので、プロを目指すならとっても難しい判断だと思います。

私はどっちでもいいかなと思うんですけど、自分でしっかり決めて欲しいなとは思います。

 

 

●木村先生のお弟子さんの高野智史四段も大学に進学されました。
彼は最初進学しない、興味ありませんって言ったのに中央大学の付属に進学したんですよ。

今もそうですけど、とても飲み込みの早いところがあって、そういう点では出来た弟子ですね。

あんまり彼を弟子に取って苦労したことはないです。

欲を言えばプロになったんだからもうちょっと勝たなきゃとは思いますけど、でもプロになってくれたからそれだけでも良かったです。

(※編集部注:高野智史四段は2019年の10月に開催された第50期新人王戦三番勝負にて増田康宏六段相手に2勝1敗で勝利し、新人王となりました)

 

●丸山先生、木村先生など佐瀬門下の先生方は対局中に佐瀬一門ポーズ(*4)をされる方が多いように思います。
米長先生がそうしてましたね。多分真似をしているんじゃなくて、姿勢を保つのに楽なんですよ。

ずっと座っているのがきつくて、30代前半くらいまでは一日ずっと正座してましたけど、今もう続かないもの。

だからどんどん姿勢が崩れていく中で、前かがみにならず維持するのに一番いいのはあれなんですよ。

あれが続けられればまだいいほうなんですけど、米長先生は姿勢が良かったですよね。

今は私もそうですけど姿勢はよくないかなって感じがします。でも体のものだから、難しいですね。

*4 正座した膝の上に閉じた扇子を立てて、その上に肘を置いて頬杖をつく仕草

 

●木村先生もお弟子さんの高野先生も、対局姿勢が綺麗な印象があります。
そうですか。私は途中で崩れるところはありますけどね。

高野は入門した時から正座を崩すことがなかったので、それなりに根性があると思います。

 

●奨励会に3名のお弟子さんがいらっしゃいますが、どんな指導をされていますか。
なるべく自宅で月に1回一対一で指す機会を作ろうとして、ずっとやっていたんですけど、今年に入ってから私が土日に用事が入るようになってしまって、毎月見られなくなってしまったんです。

そうしたら高野君が何も言わずに2人に稽古をつけるようになって、助かっています。

ただ、土日に空いた時があればそういう機会を作るようにはしています。
本当はすっと伸びて欲しいんですけど、伸びる時期には人それぞれ違いがあって、そういう点ではやきもきすると言うか、心配になると言った方が良いですかね。

辞めた人もいますので、そういうところはやっぱり気になります。

ただ、どうしても駄目だって時には辞めさせるのも師匠の務めかなとも思っていますので、こりゃあ駄目だと思った時には言うようにしていますよ。

あんまり楽な選択ではなくて、きつい選択なんですけど、そういうことは意識してやっています。

 

●お弟子さんへの接し方で気を付けていることは。
弟子を褒めたことは一度もないですね。

叱ったことはあるけど、優しい言葉をかけたことは一度もない。

それに耐えられないんだったら辞めてもらった方が良いと思ってやっていますから。

きついものだって前提で指導するようにしていますので、多分弟子にとってはかなりきついですよ。

でもプロになる・ならないは別として、この世界に入って良かったと思ってもらえるようにしたいですしね。

あんまり後悔はしてほしくないので、少なくとも厳しいことを言うということはずっとやっていきたいと思っています。

だから弟子に好かれるどうかなんてわからない。

とんでもないやつだったと思われるかもしれないです。

ただ子どもだから厳しさというのも考えなくちゃいけないところがありますね。

 

●これからもお弟子さんは取られますか?
どうでしょう、今のところは取るつもりではいますけど、いつまでもっていうわけでもないので。

人数もなかなか多くは取れませんのでね、今ぐらいがちょうどいいかなと思っています。

こっちもやるからには丁寧に接さなくちゃいけないところもあるので、そういうことができるうちは取りたいと思っていますが、難しいですね。先のことはわからないです。

 

●お弟子さんはドラの穴教室(*5)から取られていますね。
そうですね。でも違うところに行ってる人もいます。師匠がいないだとか、望む子はうちに入るようにしてますね。

もう師範やって15年になるんですけど、高野君がそこに一番最初に来た教室の子です。

*5 北浦和将棋サロンで週1回開催される有段者向けの教室 

kitaurawasyogisalon.jimdo.com/ドラの穴教室/

 

(2019年6月7日取材 文=沙耶 写真=直江雨続)

 

その3に続きます)

 


 この手だれの手?(完全版) 第39回 ゲスト 木村一基王位(1)

駒doc.2019秋号「この手だれの手?」で誌面の都合上カットした部分を加えた(完全版)のインタビューをご紹介いたします。

全5回に分けて全文公開いたしますので、ぜひご覧ください!

 

 第39回ゲスト 木村一基王位 

 

PROFILE

1973年6月23日生まれ。千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。
1985年6級で奨励会入会、1997年4月四段。2017年6月26日九段。第60期王位。順位戦A級・竜王戦1組在籍、タイトル戦登場回数7回、タイトル獲得1期。棋戦優勝2回、将棋大賞受賞4回。
千駄ヶ谷の受け師という愛称で親しまれる居飛車党。将棋での活躍もさることながら、わかりやすく面白い解説にもファンが多い。

 

インタビュー(1)

 

●将棋は5、6歳の頃にご友人から教わったそうですね。
そうです。教えてくれたのは隣に住んでいた子でしたね。

でもすぐにその子より強くなったので、近所の将棋の集まりに行くようになりました。

そこにいたおじさんが、当時千葉にあった将棋クラブに連れて行ってくれました。

小学校2年生の夏休みの時に、その将棋クラブにたまたま指導にきていた佐瀬先生(佐瀬勇次名誉九段)が声を掛けてくれたんです。

その時私は1級か初段くらいだったですね。まだそこまで強くなかったんですが、弟子にしていただきました。

佐瀬先生に最初に教わった対局では二枚落ちで入玉されて負けたのを今でも覚えています。

 

●それから佐瀬先生のお宅に時々通うようになったのでしょうか。
そうですね。当時は庄司さん(アマチュア強豪の庄司俊之氏)と中井さん(中井広恵女流六段)が内弟子(*1)をしていまして、よく教わりましたね。ずいぶんお世話になりました。

*1 師匠の家に住み込んで、家事手伝いをしながら修行をする弟子のこと。

 

●子どもの頃の勉強法は?
将棋クラブや道場に行って指してましたね。それだけだったと言ってもいいです。

地元の千葉に行ったり、新宿や千駄ヶ谷の将棋会館に行ったり。番数(*2)をこなせって師匠が言っていたので、それを信じきってやっていましたね。

とにかく指すのが一番楽しかったですね。

詰将棋とかも一応やりましたけど、あんまり解けなかった。

全然やらなかったわけじゃないし、逃げていたつもりもないですけど、それほどやりませんでした。

だからお子さんがいる人とか、覚えたての人とかにお勧めするのは実戦でたくさん指すことですね。

*2 様々な行事や相撲の番組・試合などの数。ここでは転じて対局数のこと。

 

●道場や大会にはお一人で行かれたのですか。
千葉の将棋クラブも最初だけ親が来たんですけど、あとは全部一人でしたね。

この世界の鉄則として「親が関わると強くならん」と当時から言われていましたので。

気になるのはわかるんですけど、親が何かすればするほどダメになるというところははっきりあります。

今ご時世がご時世だから最初は心配でしょうけど、強くしたいんだったらほっといた方が良いのかなと思います。

成績とかも気にしないほうが伸びるんじゃないですかね。

 

●木村先生のご両親は将棋を指されますか?
ルールは知っています。親父が忙しかったんで、最初は母親が事典でルールを覚えて指してくれましたけど、そのうちやらなくなっちゃいました。

親父もルールは知ってましたけど、指したことは記憶にないですね。

 

●親御さんは見守るのが大事でしょうか。
そうですね。人間ですから気にしてないわけはないんでしょうけど、自分の場合はほぼノータッチだったように思います。

 

 

●小学校時代は大会にもよく出場されましたか?
今と比べれば、大会はずいぶん少ないですからね。恵まれていますよ、今のお子さん達は。

小学生名人戦だって今みたいな地方予選をやれてない時代でしたから。

あとは東急とかの将棋まつりでは結構あって、そういうのは出てましたけど。

 

●現在棋士になった先生方とも大会で対戦されたのでしょうか。
札幌に行って野月君(野月浩貴八段)とか屋敷さん(屋敷伸之九段)と当たったんですけど(*3)、東京だとあんまり記憶がないんですよ。同世代だと行方君(行方尚史八段)は青森ですし、三浦君(三浦弘行九段)は群馬ですからね。だからあんまり会わなかったです。大会で会った人としては年上の人が多かったような気がしますね。札幌でのことは結構強く記憶に残ってますけど、その印象が強すぎるからかもしれないです。

*3 1984年1月に開催された札幌東急将棋まつり小学生大会。野月八段が優勝、木村王位が準優勝、金沢孝史五段がベスト4。

 

●札幌の将棋大会にはどういった経緯で参加されたのでしょうか。
札幌は両親の実家で、お正月に帰省しました。

当時は年2回大会をやっていたと思うんですけど、その内の正月の大会で、屋敷さんが6年生、私は4年生だったかな。

1回戦で屋敷さんと当たって、うっかり勝っちゃったからずいぶん注目されましたね。

その屋敷さんの評判たるやものすごいものがあったのですが、こちらはそれを知らないから。

知っていたら多分負けてたでしょう。

 

●札幌の大会で出会った屋敷九段・野月八段・金沢五段が奨励会の同期ですね。
そうですね。屋敷さんは2学年違って、すぐ棋聖取っちゃったからあんまりそういう意識がないですね。

金やんもフリークラスに行っちゃったけど、17歳で三段ですから、決して遅い方ではなかったですよね。

同期だと他に桐山さんだとか新潟の早川さんとか、アマチュアの強豪の人も何人かいますね。

 

奨励会試験は2回受けられています。
そう、1回落ちました。今は二次試験で1勝すればいいんですけど、当時は一次試験が5勝1敗、二次試験が1勝2敗で落ちました。

師匠が絶対受かるからって言ったけど受からなかった。

でもあんまりショックもなくて、いずれ入るもんだと思ってました。

最初は5年生の時に研修会C2で受けて落ちて、1年経ってB2で受かりました。

もう6年生の時は満を持してという感じでした。

 

●奨励会時代はどんなお子さんでしたか。
早指しでね、奨励会の時はもうちょっと時間を使うんだってことをよく言われまして、意識したけど全然駄目でした。

よく30分ぐらい時間を残して負けたりしていまして、今になってみればずいぶん無駄なことをしたなと思います。
師匠は早指しは奨励していたんですよ。

長考すると、迷っているだけだったら絶対ダメだから、癖になるからやめろと言われたんです。

迷うくらいだったら指して番数をこなせと。

ところが奨励会入った途端に、時間残すのはやめろと言ったんですよ。

プロの世界に入ったんだから、そういうやり方を心掛けた方が良い、上手く切り替えられるというようなことは言っていたんですけども、まあ師匠の言うことを聞くような子どもではなかったです。小学生ですしね。

 

●奨励会に入会されてからも、勉強法は実戦が一番多かったのでしょうか。
指す方が多かったですかね。奨励会の有段者になると考え方が少し変わってきたというか、筋肉がついてきたというか、それで少しやり方が変わって詰将棋も解くようになりました。でもそれまではほとんど変わらなかったかなあ。

 

(2019年6月7日取材 文=沙耶 写真=直江雨続)

 

その2に続きます)

 


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